私の “変える”「LGBTQも安心して受けられる医療を」井上陽子さん(5/7)
今年も12月の寄付月間の時期となりました!寄付月間とは「欲しい未来へ、寄付を贈ろう」を合言葉に、毎年12月に全国的に行われる啓発キャンペーンです。
虹色ダイバーシティが今年も様々な活動ができたもの、いつも応援してくださる皆さまのおかげです。今年もスタッフのメッセージをお届けしながら、私たちの活動を継続するためのご寄付を呼びかけていきます!
今年のテーマは「私の “変える”」
虹色ダイバーシティスタッフ一人ひとりが各自の経験に基づいて、社会に関して変えたいことについてのメッセージをお届けします。
第5回のメッセージは広報担当の井上陽子さんです。
「LGBTQも安心して受けられる医療を」
私は2018年に乳がんになり治療を受けました。乳がんは患者のほとんどが女性ということもあり、女性でも男性でもない性を自認している私は治療の開始前から驚くことが多々ありました。
「乳房を部分切除にしますか?」
「抗がん剤の副作用で髪の毛がなくなるので、治療の前にウィッグを作っておいた方が良いですよ」
乳房という部位は、あるかないか見てすぐわかるということもあるせいか、全摘することを躊躇う人も多くいるということは知っています。「髪は女の命」という言葉もあるので髪がなくなることは多くの女性にとってはショックなことかもしれません。しかし、これがもし他の部位のがんだったら「部分切除にしますか?」と聞くでしょうか?私が男性だったら「先にウィッグをつくった方が良いですよ」と言うでしょうか?「がん」という命に関わる病を前にして、その時の私は「まだ死ぬわけにはいかない、一刻も早くこんなおっかないモノをとってほしい」という気持ちしかなく、がん治療を優先するわけではない様々な言葉を「女性だから」と、まるで腫物に触るかのように治療より先に言われることに違和感しかありませんでした。
幸い、私が治療した病院は私の同性のパートナーのことも家族として扱ってくださいました。しかし大きな病院は、担当の先生だけでなく入院窓口をはじめ多くの医療スタッフが関わるので、治療中もその都度カミングアウトすることは結構な心理的負担でした。今の日本では同性同士は結婚できないため、同性パートナーの扱いも医療機関によって違います。このとき私は意識もあり自分の言葉で説明することができましたが、もし意識のない状態だったら、もし私の意識が戻らないまま命がなくなったら、私のパートナーは家族として扱ってもらえたのでしょうか?
患者としての経験だけではなく、2011年には母を見送る立場も経験しました。末期がんだった母の最期をホスピスで見送った時も、私のパートナーは家族として一緒に見送ってくれました。亡くなった母とともにホスピスから自宅へ帰る際に、スタッフの方から「このエレベーターはご家族しか乗れませんので」と言われ、私のパートナーだけ同じエレベーターから一緒に出ることができませんでした。このとき改めて私とパートナーの社会的関係の危うさを痛感しました。
私はこのような経験を通して、LGBTQやその周囲の人が安心して治療に専念できる医療環境を整えていただきたいと切実に思います。
「私のことを説明して対応してもらえるのだろうか?」
「私のパートナーは家族として扱ってもらえるのだろうか?」
「戸籍名で呼ばれたくないなあ」
LGBTQと医療に関する問題は、同性婚や差別禁止法などの法制化が根本的な解決方法だと思います。しかし今この時にも不安に思い、悲しい思いをするLGBTQ当事者はいます。LGBTQ当事者はどこにでもいることを前提に、LGBTQも含むすべての患者が安心して治療に専念でき、患者家族が不当な扱いをされない環境づくりに、医療関係者の方は今すぐに取り組んでほしいと思います。
社会を “変える” ために
「私の “変える”」というテーマでお送りしています。虹色ダイバーシティは今年でNPO法人化10周年を迎えました。この10年、皆さまの応援のおかげでたくさんのLGBTQに関する社会の変化を生み出すことができました。今後もLGBTQに関する啓発活動や、LGBTQ当事者への支援の輪を広げられるよう活動してまいります。
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