「万博の人権実践を次に繋ぐ〜EXPO2025大阪・関西万博における国際イベントの実践知〜」 報告会レポート

20260123_万博の人権実践を次に繋ぐ

2026年1月23日(金)に開催しました報告会「万博の人権実践を次に繋ぐ〜EXPO2025大阪・関西万博における国際イベントの実践知〜」では、大阪・関西万博における人権配慮の取り組みを振り返り、現場で実際に機能した点や課題を、制度設計・研修・運用の観点から整理しました。

本レポートは、得られた実践知を体系化し、次の国際イベントで参照・活用できる形で公開しています。

▶︎ 報告会アーカイブ(YouTube)
https://www.youtube.com/live/qljPwdGQ6QE

▶︎報告資料(PDFデータ)
https://nijiirodiversity.jp/wp2025/wp-content/uploads/2026/02/20260123_expo2025-report.pdf

イベント概要

  • 日時:2026年1月23日(金)19:00~20:00
  • 形式:オンライン開催(YouTubeライブ配信)
  • 主催:認定NPO法人 虹色ダイバーシティ
  • 登壇者(敬称略):
    • 永井美佳(社会福祉法人大阪ボランティア協会 常務理事・事務局長)
    • 村木真紀(認定NPO法人虹色ダイバーシティ 理事長)
    • 有田伸也(認定NPO法人虹色ダイバーシティ 理事)
    • 長野友彦(認定NPO法人虹色ダイバーシティ プライドセンター大阪マネージャー)

◾️「社会福祉法人 大阪ボランティア協会」について
1965年に誕生した民間の市民活動総合サポートセンター。より公正で多様性を認め合う市民主体の社会をつくるために、ボランティア活動や市民活動を通じて、市民が主体となった社会づくりをめざしています。「ボランタリズム」の精神を大切にしながら、ボランティア・NPO・企業市民活動のコーディネーション、市民学習、災害支援、市民シンクタンクなど多彩な事業を、多様な主体と協働して取組みます。大阪・関西万博の設計段階から関与し、ボランティアの位置づけや運営のあり方について提言を行ってきました。
※社会福祉法人大阪ボランティア協会ホームページ:https://osakavol.org/

◾️「認定NPO法人 虹色ダイバーシティ」について
性のあり方による格差のない社会づくりをめざして、調査研究・社会教育・LGBTQ+センター運営を行っている認定NPO法人。職場・学校・地域など、日常生活におけるLGBTQ+当事者や周囲の人々の生きづらさを解消し、SOGIによる格差のない社会の実現をめざして活動しています。大阪・関西万博では、LGBTQ+に関する研修の実施や人権に関する検討への関与を通じて、人権配慮の実装に携わりました。

プライドクルーズ大阪

開催の目的と位置づけ

国際イベントにおいて「人権」や「誰一人取り残さない」という視点は不可欠です。一方で、その多くは制度や方針として掲げられるにとどまり、現場でどのように機能したのかという実践知が十分に共有されてこなかったという課題があります。

虹色ダイバーシティおよび大阪ボランティア協会は、大阪・関西万博において、行政や万博関係者と比較的早い段階から関係性を築き、人権の視点を現場に実装するための取り組みを行ってきました。

本レポートは、大阪・関西万博における人権配慮の取り組みを「評価」や「総括」として扱うものではありません。成功・失敗の判断を行うのではなく、実際に関わる中で何が見え、どのような学びがあったのかを整理し、次の国際イベントに活かすことを目的としています。万博という大規模かつ複雑な国際イベントにおいて、人権の視点をどのように組み込み、現場で機能させていくのか。その過程で得られた知見を整理・共有し、次の国際イベントに繋げる場として位置づけています。

共有された3つの知見

本報告会では、大阪・関西万博での関与を通じて、以下の3つの知見が整理されました。

1.⼈権の視点を制度ができる前に取りいれる重要性(設計の前提・タイミングの視点)

両団体は、比較的早い段階から行政・万博関係者と関係構築ができたことで、一定の成果を上げることができました。

一方で、当初の制度設計や運営体制の前提には、

  • ボランティアが「運営補助」として位置づけられていたこと
  • 人権デューデリジェンスが、一般的・抽象的な人権課題を中心に構成されていたこと

などの制約もあり、後からの改善や調整は可能であったものの、制度の前提そのものを大きく変えることは難しかったという限界も共有されました。

▶︎ 次に活かすポイント
人権の視点は、制度設計の前段階から意思決定プロセスに組み込むことが重要です。

2.「声なき声」を制度の中⼼に置いて捉える重要性(価値判断・視座の視点)

万博の運営において、違和感や困難、不安は、苦情や要望として表に出にくい傾向がありました。
特に、性的マイノリティ、障害のある人、外国ルーツの人などは、声を上げること自体の心理的・関係的ハードルが高い状況があります。

そのため、制度設計においては、「すでに出てきた声」だけでなく、出にくい声を想定した前提設計が重要であることが確認されました。

▶︎ 次に活かすポイント
声として表れにくい違和感や困難を前提に、人権配慮を設計する視点が求められます。

3.⼈権の取り組みは設計と運⽤を往復しながら修正する仕組みとして捉える重要性(改善・モニタリングの視点)

万博では、人権方針や配慮設計自体は一定程度整備されていました。
しかし、

  • 運用中に生じた気づき
  • 現場での違和感

を継続的に共有し、制度改善につなげる公式な仕組みは限定的でした。

両団体は非公式・自主的にモニタリング(表示、設備、対応など)を行っていましたが、
改善につなげる回路を制度として持てなかった点が課題として共有されました。

▶︎ 次に活かすポイント
設計と運用を切り離さず、改善を前提としたモニタリング体制を組み込むことが重要です。

虹色ダイバーシティの取り組み

制度・意思決定への関与

研修の実施(LGBTQ+・人権) ※延べ2,000名以上が研修を受講

  • 博覧会協会職員向け研修
    • eラーニング「人権(LGBTQ)の取組に関する職員研修」
    • 基礎編・応用編/約700名対象(2024年8月)
  • パビリオン運営スタッフ向け研修
    • 人権(LGBTQ)に関するeラーニング
    • 約552名対象(2025年3月)
  • ゲストサービスアテンダント向け研修
    • 会場案内、迷子・忘れ物対応、巡回担当者向けLGBTQ研修
    • コアクルー・サポートクルー約1,000名対象(2024年12月〜2025年2月)

要望・方針策定

現場での実践・モニタリング

  • 各国パビリオンでのプライドフラッグ・レインボーカラー展示の確認
  • 会場内デジタルサイネージで「⼈権デュー・ディリジェンス」および「通報受付窓⼝」の告知(多⾔語案内)とプライド⽉間の周知を確認
  • オールジェンダートイレの設置状況の確認
    • 会場内45か所中18か所(約4割・108基)
    • Osaka Metro中央線 夢洲駅に6基設置

イベント開催・登壇

▶︎詳細は「報告書」にまとめておりますので、ご確認ください。

大阪ボランティア協会の取り組み

万博設計段階からの関与・提言

  • 博覧会協会・大阪府市万博推進局と継続的に意見交換
    • 万博ボランティアのあり方について提言(2022年〜現在)
  • ボランティアを「人数」ではなく一人ひとりの動機・主体性・多様性を尊重する存在
    として位置づける視点を提示

市民側からの議論・場づくり

  • オンライン緊急フォーラムの開催(2023年4月)
    「私なら、こうしたい!! 大阪・関西万博のボランティアコーディネーション」(参加者62名/後日視聴135回)
  • 「SDGs万博市民アクション」の立ち上げ・運営
    環境団体、国際協力団体、中間支援団体など12団体が参加(2024年1月〜)

ネットワーク形成・情報提供

  • 東京オリパラを契機に形成された NGO/NPOネットワーク「SUSPON」の事例ヒアリング(2023年9月)
  • 万博ボランティアセンターにてボランティア推進機関発行の情報冊子を設置・提供(2024年12月頃〜)

万博後を見据えた市民活動の継続支援

  • 万博を契機とした「市民・NPOのまちづくり参画・協働拡大」に関する提案を博覧会協会・府市万博推進局・市民協働部局に提出(2025年2〜3月)
  • 公式LINE「万博ボランティア★ネクストチャレンジ」を開設
    万博終了後も、地域・社会貢献活動への参加を促す情報提供を実施予定(2025年12月〜2027年3月)

ボランティア研修への関与

  • 万博ボランティア基本研修における「ダイバーシティ&インクルージョン」視点の整理・共有
    • 会場ボランティア約14,000人、まちボランティア約16,000人が対象
    • 文化、性、世代、ライフステージ、心身機能の多様性という5つの観点

次の国際イベントに向けて

国際イベントにおける人権対応は、その社会の現在地を映す鏡です。本報告会で整理された実践知は、大阪・関西万博に限らず、今後の国際イベントにおいても参照可能な内容となっています。

本報告会を通じて、人権配慮は「方針を掲げること」だけでは不十分であり、設計前・運用中・事後まで一貫したプロセスとして設計する必要があることが改めて確認されました。また、市民社会や当事者団体が、制度設計の段階から正式に関与できる仕組みを持つことが、次の国際イベントにおいてより重要になることが示されました。

虹色ダイバーシティは、今後も調査研究と現場での実践を通じて、人権が「掲げるもの」ではなく「機能するもの」となるための知見を発信していきます。あわせて、日本におけるLGBTQ+コミュニティ支援の必要性と、行政・企業・非営利団体が協働することの意義を国内外に共有していきます。

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